鶴屋さんの危ない放課後 - 4

 写真は一枚しか撮らなかった。
「はいっありがとねっ」
 鶴屋さんが礼を告げると、こく、っと長門は小さく頷いた。デジカメを撮影モードからスライドモードに切り替えると、小さな液晶につい先程撮ったばかりの長門の姿が映し出される。扇情的な衣装を身に纏ったファインダーの中の長門は、だが彼女に悔恨以外の感情を浮かばせ得えなかった。まぁプロのカメラマンでもない自分が撮る絵なのだ、この程度で妥協すべきなのだろう。
 削除してしまっても良かったが、苦労して撮影した一枚をあっさり捨ててしまうのも勿体無い気がした。数秒の逡巡の後、結局そのままデジカメの電源を落とす。我ながら何と女々しいことか。
 デジカメを袋に戻して顔を上げると、長門は既に衣装を脱ぎ始めていた。
「ああっ、もう着替えちゃうのかいっ有希にゃんっ」
 そりゃないよーと残念がる鶴屋さんに、長門は無常に告げる。
「……そろそろ戻る頃」
 誰が、とは聞くまでも無かった。
「あー……そっかっ、じゃぁ仕方が無いねっ。ハルにゃんたちが戻ってくる前に片付けちゃおっかっ」
 写真撮影ですらあれ程固辞した長門だ、見せるなど論外だろう。鶴屋さんはあっさりと引き下がった。こくりと首肯して、長門は着替えを再開した。
 しかし勿体無いことだ。着ぐるみを折り畳みながら鶴屋さんは密かに溜息を吐いた。写真の出来がイマイチだったことだし、もうちょっと長門の姿を網膜に焼き付けたかったのに。それに次にこんなオイシイ機会がいつ来ることやら。長門がカミングアウトを拒む以上、二人きりのときにしかチャンスは無い訳だが、長門が長時間一人になるのは精々家に居るときくらいだろう。流石に自宅にまで押しかけるのは……その……理性が持たなさそうで怖い。
 ゴスロリとか着せたいんだけどにゃーとかぼやいていた鶴屋さんだったが、ここで漸く周囲の静寂に気が付いた。先程まで聞こえていた絹連れの音が途切れている。ありゃ、もう着替え終わったのか。着るときと比べて随分早い気もするが。鶴屋さんは顔を上げた。
「もう着替え終わったのかいっ」
 しかし予想に反して、長門は上着を脱ごうとした体勢のままの手を止めていた。鶴屋さんの声に気付いて長門も顔を上げる。常より若干眉尻の下がったその表情は、何処となく途方に暮れているようにも見えた。
「ありゃっ? どうしたのかなっ有希にゃんっ」
「……開かない」
 ぼそりと呟いて、長門はくるりと後ろを向いた。見ると装飾のリボンの端がファスナーに巻き込まれている。
「流石の有希にゃんもこれは自分じゃ外せないっかっ。ちょっと待ってねっ今外すからさっ」
 長門に駆け寄り腰を下ろす。近くで見ると、リボンはファスナーに軽く挟まっているだけで、適当に振っても簡単に取れそうだった。人知に外れて器用な長門が、背中とはいえ外せないとは思えない。有希にゃんも意外と不器用なのかなっ? 鶴屋さんは首を傾げながらもリボンをファスナーから抜き出した。
「はいっと! 外れたよっ有希にゃんっ」
「……ありがとう」
「いいってことさっ。もともとこんなややこしい服を持ってきたのはあたしだしねっ」
 わざわざ振り返って礼を言う長門に、ひらひら手を振って鶴屋さんは応えた。そのまま何の躊躇も無く服に手を掛ける長門に、鶴屋さんは慌てて腰を浮かそうとし、
 ――長門の唇が目に入った。
 色素の薄い唇は、だが夕陽に焼かれて、紅を引いたように赤く熱を持っていた。軽く閉じられた唇は然程肉厚という訳でもなかったが、長門が身体を動かす度に微かに形を変え、周囲の肉とは異なる明らかな柔らかさを主張している。
 ……一体、どれ程柔らかいのか。その柔らかさを、直に触れて確認してみたい――そんな衝動が、頭を埋め尽くしていく。指で? 頬で? いや、いっそお互いの唇で――
 不意に長門が顔を上げた。長門の瞳が自分をじっと見返している。琥珀を練り込めたようなような瞳は、間近で見るとその透き通るような輝きに吸い込まれそうになる。しかしその瞳の存外な大きさに、鶴屋さんは軽く驚いた。一体何に驚いてそんなに目を見開いているのか。でもそれにしては瞳が大き過ぎるような。……あぁ、単純な話じゃないか、距離が近いから大きく見えるだけだ。つまり自分が顔を近づけているからで、何故近づいているかというと、長門の唇に自分のそれを――
 そこで、漸く思考が正常に戻った。
「あ、あはははっ! 何やってるんだろうねあたしはっごめんね有希にゃんっ!」
 ばっ、と飛びのくように長門から離れると、鶴屋さんは灼熱する頬を隠すように額を掻いた。
「いやっあんまり有希にゃんがかわいいからさっついムラっときちゃったみたいだねっほんっとゴメ――」
「……止めなくていい」
 鶴屋さんの苦しい言い訳を、長門の静かな言葉が遮った。
「な、何を馬鹿なこと言ってるのさ有希にゃん……お、女の子どうしでキスなんてさっ……」 「……でも、貴方のここは止めたいとは言っていない」
 そう言って長門は、痺れたように立ち竦む鶴屋さんのスカートに手を這わせた。瞬間、びくっと鶴屋さんの身体が痙攣する。長門の手に押されたスカートの布が鶴屋さんの恥丘に張り付いて、その奥に隠されたラインを浮かび上がらせる。――そこに、本来女性であればある筈の無い、形を。
「ど、どうして……」
 呆然と鶴屋さんは呟いた。これまで必死に守ってきた秘密。一緒に着替えをするクラスメイトにすら隠し通してきた真実をあっさりと暴かれて頭が真っ白になる。股間から臍の辺りまで滑り上がった長門の手が、平から何かを握るように形を変える。その手が象るものに気付いて、鶴屋さんは咄嗟に腰を引いた。
 瞬間、鶴屋さんの腰からスカートが滑り落ちた。
「ひっ!」
 いつの間にホックを外していたのか。彼女のスカートは滑稽にすら見える程の鮮やかさで彼女を裏切って、その奥の真実を晒しだした。

 ――納まりきらずショーツから飛び出し、臍まで反り返った、男性器を。

「ちっ、違うんだよ有希にゃんっ! これは――」
 髪を左右に振り乱しながら、鶴屋さんは自分の秘部を掌で隠そうとした。その両の隙間に、長門の腕が素早く伸ばされる。止めることも出来なかった。長門の腕はあっさりと鶴屋さんの手を割り、その奥の男性器を掴み上げた。
「あぅっ!」
 細い指が竿に絡む。その指先が自分の恥部を撫で上げる感触に、鶴屋さんは言葉にならない声を唇から漏らした。その酷くだらしない吐息に、自分で愕然とする。
「ゆ、有希にゃん、何をするの、さっ!」
 長門は鶴屋さんの詰問を無視して、彼女の前に膝を着いた。軽く開かれた唇から、細く舌が伸ばされる。ゆっくりと近付いていく顔。その舌先が向かう先に気付いて、鶴屋さんは悲鳴のような声を上げた。
「待って有希にゃんっ、あたしはこんな――」
 長門の頭に手を掛けて押し戻そうとする。だが長門の指が裏筋をなぞる度、身体は過敏に反応して腕から力を奪っていく。弱々しく自分を押し返す鶴屋さんの手を押し退けて、長門は鼻先が竿に触れる程顔を摺り寄せた。
 長門の前髪の隙間から覗く自分の亀頭。見下ろしたそれは、だらしなく口をひくひくさせて透明な涎を浮かべている。今にも垂れそうなそこに長門は顔を寄せ、匂いでも嗅ぐように一度鼻をひく付かせると――舌先で、それを舐め上げた。
「ああぁぁっっ!!」
 電流が皮膚の裏を駆け巡って、鶴屋さんの身体を縛り上げた。
 足からすらも力を奪われてまともに立つことも出来ない。倒れそうな身体を、鶴屋さんは壁に手を突いて必死に支えた。そんな鶴屋さんにお構いなしに、長門は鶴屋さんを攻め立てた。尿道口を舌先で割り、裏筋からカリをなぞり、亀頭を丹念に唾液で塗し上げると、口付けるようにそこへ覆い被さった。
「あぁっ! やっ! 有希っ! ひゃん! ぁんっ!」
 長門が亀頭を舌で、歯で、唇で攻め立てる。その度に鶴屋さんの口から喘ぎ声が漏れた。自分のそんな声を聞きたくないのに、堪えようも無く響く嬌声。
「ぁはぅっ! ひぁ、ふっ、あぁっ!!」
 思わず自分の手で口を塞いだ。窒息死せんばかりに力を込めても、だが咽は陰猥な唄を止めようとしない。その堰を破らんとばかりに、長門の手と口が執拗さを増していく。陰茎を締め付ける指先。裏筋を削り取らんと這い回る舌。音を立てて先走りを吸い上げる唇。やがて長門の歯が、引っ掻くように亀頭を撫で上げた。
 電撃が、背骨を貫いた。
「あああああああぁああぁぁぁあぁぁっっ!!」
 鶴屋さんの背が反り返った。暴れた男根が長門の口から跳ね上がって、白く濁った液を撒き散らす。噴水のような勢いで舞い上がった飛沫は、間近にあった長門の顔を髪を、容赦なく汚していく。
 がくがくと振るえる足は、今度こそ鶴屋さんを支えてはくれなかった。ずりずりと壁に背を擦りながら、空気の抜けていく風船のように鶴屋さんはへたり込んだ。

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