「では帰りましょうか、シロウ」
いい加減帰らないとそろそろ夕食が始まってしまうだろう。凛とイリヤが居るとはいえ、このままでは帰るまでに鍋の具が無くなり兼ねない。急かすようにアルトリアが士郎に傘を渡す。ああと肯いて士郎は傘を受け取り、だが士郎はその傘を差そうともせず一成を見た。それだけで、アルトリアには士郎が何をするつもりなのが大体察しが付いてしまう。
「ほら、一成も傘無かったろ?」
ほら、やっぱり。アルトリアは士郎の後ろで小さく溜息を吐いた。
「いや、俺は構わぬ。どうせまだ所用がある故、暫くは帰らん。それまでには止むやも知れんしな」
「そんなこと言って、止まなかったらどうするんだ」
一成は遠慮して中々首を縦に振ろうとしなかったが、結局士郎に押し切られる形で傘を受け取った。
「それで? シロウはどうするつもりです?」
「あー、すまん、リア。入れてくれるか?」
「そういうつもりなら、先に私に断っておくべきだとは思いませんか?」
「う、すまん」
ばつが悪そうに頭を掻く士郎に、仕方ありませんねとアルトリアは傘を開いて横を空けた。士郎が濡れて帰る友人を見捨てることなど出来ないことはもう散々理解している。士郎が言わなくても恐らく自分も差し出していただろうに、そんなことは棚に上げてアルトリアは長々と嘆息する。士郎は随分伸びた長身を小さく窄めて傘の中に入ってくると、持つよと言ってアルトリアから傘を受け取った。
「――ん。どうかしたか? 一成」
「ん? ああ――」
雨の中へ歩き出そうとしていた士郎とアルトリアを、一成が何処か憧憬を含んだ眼で見送っていた。常とは違う視線を訝る士郎に、一成はいやと首を振って、
「そのように相合傘などしておるとまるで夫婦のようだな。いや、似合いだぞ、衛宮」
――そんなとんでもない言葉を無責任に落とし。
「――う」
「――な」
硬直して動けない二人を残して、真意を明かさないまま一人校舎へ戻っていった。
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