――気が付くと、玄関はがらんとしていた。
 人で溢れていたときはあれだけ狭く見えた下駄箱も、一人立てば随分と広く感じる。アルトリアは視線を入り口から外へやった。空はもう夜の様相で、深い闇は雨の軌跡さえも見せようとはしない。
「一体シロウはいつまで私を待たせる気でしょうね?」
 呟きは闇に紛れて消える。変わらず雨はさあさあと流れ続けている。耳慣れた雨音。やがてそれは重苦しい静寂に変わる。ここは広くてとても窮屈で、アルトリアは少し寂しいと感じた。
「――済まんな衛宮。遅くまで付き合わせてしまった」
「いいって。どうせ雨止むの待つつもりだったし」
 ――やっと、愛しい声が聞こえた。
「そう言ってくれると気が楽だが……おや、アルトリアさん」
「リア?」
 一成の声に、士郎の視線がアルトリアの姿を探す。――ここですシロウ、早く見付けて下さい――すぐにアルトリアを見出して、士郎がばたばたと靴を履き替えて駆けて来る。頬が緩みそうになるのを、アルトリアは必死に抑えた。これだけ待たされたのだ、文句の一つも言ってやらなければ、気が治まらない。
「リア。迎えに来てくれたのか」
「どうせシロウのことですから、傘を持って出ていないだろうと思って来ましたが、正解だったようですね。もう少し早く出て来て欲しかったものですが」
「う。怒ってるか?」
「ええ、それなりに」
 殊更怒ったように見せるアルトリアに、士郎は困ったように顔を顰める。笑い出しそうになるのをアルトリアは必死で堪えた。迎えに来たのは自分の勝手だし別にもう怒ってなどいない。ここで甘い顔をしようと怒って見せようと、士郎の性格が変わる訳でも無いと分かっている。でも士郎の所為で少々心細い思いをしてしまったのだ、これくらいしても、きっと罰は当たらない。
「申し訳ない。長々と衛宮を借り受けてしまった」
「イッセイももう生徒会長ではないのです。少しは落ち着いた生活を送ってはどうです?」
「性分なもので。衛宮に頼りきりに成らぬようにとはしているのですが。いや、まだまだ未熟者です」
 軽いアルトリアの皮肉に、一成は四角張って頭を下げた。そんなだからいつまで経っても心配性が抜けないのだろうに。渇などといつもの気合を入れる一成に、アルトリアは嘆息した。

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