雨は強くなりはしないものの、一向に止む気配を見せなかった。雨宿りを決め込んで入り口に屯していた生徒も、結局意を決して雨の中に飛び込んでいく。次々と減っていく人影を横目に、左手に巻いた腕時計に眼を落とす。既に6時過ぎ。そろそろ部活動も終わる頃。
そんなことを考えていると、また聞きなれた声がアルトリアを呼んだ。
「――あれ、アルトリアさん」
「――お、ほんとだ。おーい、アルトリアちゃーん」
「サクラ、タイガ」
部活動が終わったのだろう、弓道場の方から傘を並べて歩いてきた二人が、アルトリアを認めて校舎に寄って来る。
「アルトリアさん、先輩のお迎えですか?」
「ええ。シロウは恐らく傘を持って出ていない」
屈託無く尋ねてくる桜に、アルトリアは肯いた。実際ここに士郎の傘があるのだ、持っていないことは確かだろう。
「そっか、士郎、やっぱり傘持ってきてなかったんだー」
「タイガも持って出たようには見えませんでしたが?」
そう言ってアルトリアは大河の傘を見やる。折り畳み傘だから、鞄の中に忍ばせていたのだろうか。否とアルトリアは首を振った。士郎が用意したのならまだしも、大河がそんな用意周到である訳が無い。
「部活の子が貸してくれたんです。折り畳みがあるからって」
「……タイガ、仮にも教師が生徒に傘を借りるのはどうかと思う」
「ふっふ。私は皆の人気者だから大丈夫なのだ」
まぁ確かにある意味慕われてはいるのだろうが。アルトリアは諦めたように嘆息した。
「姉さん達は先に帰っちゃったんですか?」
「はい。シロウに夕食の買出しを頼まれたそうです」
学園を出た時間を考えれば、既に家に着いて夕食の用意を始めているのではないだろうか。アルトリアがそう告げると、
「じゃぁ私も先に帰って手伝って来ますね」
「そうして貰えると有難い。シロウはイッセイの手伝いだそうですから、まだ暫く掛かるだろう」
「はい。じゃぁ暖かいお鍋用意して待ってますね」
ぺこりと頭を下げて、桜は大河と共に去っていた。
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