さあさあ雨は降り続いている。
 夜の空気はもう随分と冷えているのに、それでも自分の顔が紅潮して熱くなっているのがアルトリアには分かった。肩が触れ合う距離にいる士郎をまともに見ることが出来ない。……これでは只の少女ではないか。脈打つ鼓動は早鐘のようで、鼓動の音が今にも士郎に聞こえそう。それがとても恥ずかしいことのように思えて、アルトリアは触れていた肩を離した。
 ――そに肩を、無骨な手が抱きかかえた。
「――! な、何をシロウ!?」
 少女のような悲鳴を上げそうになって、アルトリアは慌ててそれを飲み込んだ。反射的に士郎の顔を睨みつける。漸く見上げた士郎の顔は真紅で、遥か高い位置にあるそれから、アルトリアは眼を離せなくなった。
「その、離れてると濡れるだろ?」
 紡がれた言葉は子供がする悪戯の言い訳と大差がなくて、アルトリアは笑った。
「……そうですね。それは仕方ない」
 士郎の大きな身体に寄り掛かりながら、アルトリアもそんな子供じみた言い訳を誰にするとは無しに呟く。
 触れた腕から、士郎の緊張と鼓動を感じる。――欲しかったものは、ここに。アルトリアは幸せな笑みを零した。


 ――雨はさあさあ振り続ける。雲は薄く、雨脚は弱くて今にも止んでしまいそう。
 だから。せめて家に着くまでは止んでくれるなと、アルトリアは煙る空に祈った。

了

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