おむかえセイバー。

 微かなざわめきに顔を上げた。
 立ち上がって廊下に出れば、窓の外には雨が降り注いでいた。そういえば、今朝の天気予報で降水確率が50%と言っていたのを思い出す。朝方の天気が酷く良かったのですっかり忘れていた。言われてみれば冬にしては空気が湿っていたか、などとアルトリアは呟いた。肌寒さに身振るいを一つ、上着を着込もうと踵を返す。ブリテンの冬はここよりも遥かに厳しかったが、この気温を寒いと感じるようになったのは、馴染んだというべきなのか、弛んでいるというべきなのか。折角シロウが買ってくれたものだ、着ないと失礼だなどと自分に言い訳しながら、アルトリアはいそいそと上着を羽織った。感じる温もりの向こうに、上着を買ったときの士郎の照れ顔を思い出してアルトリアは微笑む。
 ――それで不意に思い出した。そういえばシロウは、傘を持たずに登校したのではなかったか。遠く居間で時刻を告げる鐘が4つ鳴って消えた。

 雨用のブーツを選んで足を通す。この一年で靴も随分増えた、下駄箱を閉じながらそんなことを考える。物持ちはいい方なのにこうも服や靴が増えるのは、よく凛と出掛けている所為だろう。彼女のお節介は美徳ではあるが、過分に過ぎる嫌いがある。口の端から小さく苦笑を一つ、二本傘を手に取って立ち上がる。士郎と一緒に買った、お揃いの青い傘。
 玄関を開けると、真っ白な毛並の猫が物言いたげにアルトリアを見上げていた。
「――にゃぁ」
「シロ」
 震えた鳴き声に、アルトリアは自らが付けた名で彼女を呼んだ。軒の下で雨宿りをしていたのだろう。長い毛が雨を吸って肌に張り付き、跳ねた泥水が無地の筈の身体にとこどころ模様を作っている。
 風は冷たく、凍りそうな雨粒に容赦は無い。然程長くは迷わなかった。腕時計の針が指す時刻と振るえるシロを見比べ、アルトリアは小さく嘆息して、小さな四肢を抱き上げた。
「シロ、私はシロウを迎えに行かなければならない。留守番を頼めますか?」
「にゃぁ」
 アルトリアの言葉を理解しているのかどうか、シロは欠伸をするように一つ鳴いた。

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